STORIES / DONEXT!!
今夜の一皿は、あの人の畑から。
2035年の福岡。美咲と友人の居酒屋ごはんを、宮崎の畑までたどってみる。
未来の読みもの / FICTION — 未来の暮らしを描いたフィクションです。

※AI生成による2035年の架空の場面です。
※この記事に登場する2035年の人物・店・出来事はフィクションです。
「里芋、もう一皿いく?」
空になった皿を見て、小川美咲が友人に聞きます。福岡市の、大学時代から通っている居酒屋。今夜も二人は、食べ終わる前から次の注文を相談しています。
こんにちは、Wayfinderです。今日はInterview 04に登場した美咲の、仕事を終えたあとの時間へ。海外のチームで働くようになった彼女も、友人と会う日は、いつもの店に集まります。
最初の一個は、まだ熱い
秋のおすすめは、里芋の唐揚げ。下味をつけた里芋を揚げ、青ねぎを散らした一皿です。
美咲は一個を箸で割り、少し冷ましてから口へ運びます。薄い衣の内側は、ねっとり。隣で友人は、皿の端に添えられた塩を、次の一個につけています。
「これ、家でもできるかな」
「揚げ物する?」
「……しないね」
二人で笑って、もう一個。学生の頃なら頼まなかった焼き魚も、今夜は並んでいます。何を食べたいかは少し変わっても、相手の皿をのぞき込む距離は同じです。
就職してからは、前ほど気軽に予定が合わなくなりました。今日も、先に来られる方が席を取っています。
美咲は、仕事で初めて一人で報告をまとめた話を少し。友人が話し始めると、今度は箸を置いて聞きます。話題は途中で、近くにできたパン屋へ移りました。
おいしかったから、どこから来たか見てみる
追加を頼もうとメニューを開いた美咲が、里芋の料理名の下にある「今日の食材」を押します。
この店では、その日に使う野菜の産地や生産者を、仕入れた分の記録に結びつけて見られます。里芋の欄を開くと「宮崎県椎葉村」。生産者の名前と、出荷の記録が続きます。
「しいば、って読むんだ」
友人へ画面を向けると、畑の写真が大きくなりました。山に囲まれた畑に、里芋の大きな葉が並んでいます。
「これが、あれになるの?」
友人が葉を指し、美咲が空の皿を指す。普段は地面の下だけを食べているものに、思いがけず大きな地上部分がありました。
店の人によると、野菜は産地でまとめられ、卸を通って届くそうです。いつも同じ人のものが入るわけではなく、メニューの表示も、その日の仕入れに合わせて変わります。
二人は写真をもう少し眺めてから、里芋をもう一皿頼みました。
会ったことのない人の仕事が、ここにある
画面の生産者欄にあるのは、「田中翔太」の名前です。
Interview 01で訪ねた、宮崎県椎葉村の翔太。人付き合いから少し距離を置きたくて山あいへ移った彼は、昼は畑で働き、夕暮れから世界のチームに加わります。
美咲にとっては、今日初めて知る生産者の名前です。翔太が朝に畑から送り出したものが、別の日には福岡の店で料理になっている。その里芋を集めた人、運んだ人、揚げた人もいて、今夜の一皿が届きました。
翔太が美咲と直接会うことは、これからもないかもしれません。それでも、彼の二つの仕事のうちの一つを、美咲は「もう一皿」と頼んでいます。
美咲も、大学時代からの部屋を仕事場にして、会ったことのない海外の同僚と働いています。昼間に確かめているのは、買い物をする人が使う画面。返品したらいくら戻るのか、その説明を読んだ人が迷わないか。自分の知らない誰かが使うときのことを、先輩と一緒に考えています。
就職しても、引っ越さずに暮らせる。遠い国の同僚とも、同じ場所に集まらずに仕事ができる。技術は、人と直接会わずに働ける場面を増やしました。
その仕事が届く先には、人がいます。会わないまま誰かの暮らしを支え、自分もまた、誰かの仕事を受け取って暮らしている。
追加の皿が届くと、美咲は端末を脇へ置きます。友人はさっきより慎重に、里芋を二つに割りました。
「熱いよ」
「分かってるって」
今度は二人とも、少し待ってから食べています。