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DoNext!!とは?

DoNext!!は、現実の変化を手がかりに「ありうる未来」に人を住まわせ、その人生を仮想インタビューで覗くWebマガジンです。

未来を予言するのではなく、まだない生活や仕事を具体的に思い描き、未来の選択肢を増やすために作っています。

VIRTUAL INTERVIEW 02 / PEOPLE AND THEIR CHOICES

ここで、まだ作りたいものがある。

工場で点検予定を考える森田恵子
試験室で機体の部品を確かめる井上拓也

工場に残る道を選んだ人。新型を作る道から離れた人。どちらにも、簡単には手放せなかった仕事があった。

森田恵子は、まだ動いているロボットを止めようとしていた。

井上拓也の机には、試験を終えた部品と、まだ「使える」と書けない古い機体の対応表がある。

2040年。フィジカルAIは、工場や物流拠点の仕事の一部を引き受けている。個人や共同保有組織が機体を持ち、運用会社が利用先との契約や保守を担う。そこから生まれた分配は、人によって生活を支える収入の一つになった。

ただ、機体が普及すれば、人が判断しなくてよくなるわけではない。工場にはそこで働く人がいる。開発現場には、かつて新型を作ることを誇りにした人がいる。

二人の現在の仕事は違う。けれど、どちらも今の仕事を最初から目指していたわけではなかった。自分の仕事の意味が変わる時間を経て、それでも何を続けたいかを選んでいる。

変化の中で自分の仕事を選び直した、そんな二人をそれぞれ訪ねた。

登場人物、会話、2040年の制度、個々の工場や開発の事例はフィクションです。現実の技術・制度の達成状況とは区別しています。

THE FACTORY / KAKAMIGAHARA2040
点検予定と出荷について相談する森田恵子
点検予定と出荷について相談する森田恵子

01 / CHOOSING TO STAY

森田恵子

工場長になるつもりなんて、なかった48歳/岐阜県各務原市。機械部品工場の生産技術職から、2030年代後半に工場長へ。工場では運用会社から借りたフィジカルAIが一部の工程を担う。夫と二人暮らし。給与と共同保有の分配があり、週に一度、市民吹奏楽団でクラリネットを吹く。

204001

NOW / A DAY AT WORK

08:20 止めると決めたのは、私

工場の朝は思ったより静かだった。部品を箱へ並べる機体が同じ動作を繰り返し、箱は隣の検査工程へ送られていく。

恵子が見ているのは、今日の出荷予定と、昼に機体を止めて点検する予定だった。

「ここの順番、少し変えられますか」

生産計画の担当者に尋ねる。前工程の作業を入れ替えれば、昼に箱詰めの機体を一度止めても夕方の出荷を守れそうだ。

—— まだ動いている機体を、止めるんですか。

「はい。手首の負荷と温度の記録が前回と少し違うんです。保守の人も、今日のうちに確かめた方がいいって」

—— 使える間は動かした方が、工場にとって得では。

「以前は、私もそう思っていました」

恵子は資料から目を上げた。

「ただ、急に止まったら予定を変えるのはロボットじゃない。現場の人です。誰かに残業してもらうか、翌日の予定を変えるか、客先に謝るか。『動くから動かす』は、ちゃんと決めているようで、あとを人に任せているだけのこともあります」

工場長らしい答えですね、と伝えると、少し困った顔をした。

「工場長になる前に、そういう判断をずいぶん間違えたからかもしれません」

2026—2030s02

THEN / WHEN THE WORK CHANGED

2030年代 導入を進めたのも、私

恵子は2026年ごろ、工場長ではなく生産技術の担当者だった。人が組み付けたり運んだりする工程をどう配置すれば安全に続けられるか、現場で考えていた。

仕事の途中で腕や腰を痛める人がいた。人手の足りない日には、恵子自身がラインに入ることもあった。工程を変えると誰かの負担が減る。その瞬間が好きだった。

2030年代に入ると、工場でも一部の作業をフィジカルAIへ任せる検討が始まった。恵子も導入側にいた。

—— 導入には、賛成だったんですね。

「賛成しました。重い物を同じ姿勢で持ち続ける仕事を、ずっと人にやってもらう必要はないと思ったから。あのころは、実際に楽になった人も多かったです」

—— その一方で、仕事が変わった人もいた。

「いました。検査や段取りを覚えて続けた人もいるし、別の職場へ行った人もいます」

しばらくして、恵子は言い直した。

「最初、私は『仕事が変わるだけだから』と説明していたんですよ。いま思えば、ずいぶん簡単に言いました。長くやってきた仕事に誇りがあった人にとっては、『だけ』じゃなかった」

—— ロボットを入れない道もあったのでは。

「ありました。でも、工場を続けるには必要だと思った。その判断は、今でも変わりません。ただ、工場が残れば、そのまま全員の暮らしも守れると思っていたのは甘かったです」

恵子が管理職を引き受けたのは、導入後の現場が落ち着いたころだった。

—— なぜ、工場長に?

「最初は断ろうと思いました。工程をよくする仕事を続けたかったから。でも『現場のことは分かります』って言うだけで、最後の決定を人に任せているのも違うなって」

数字も、人の希望も、納期も、すべて同時に満たせる日はない。自分が進めた変化の続きを、誰か一人の責任にしたくなかったという。

「そのかわり、専門の仕事だけしていたころみたいにはいきません。納得してもらえない判断もします。ちょっと損した気がしますよ」

そう言って、少し笑った。

204003

NOW / A DAY AT WORK

10:40 機体を替えれば、工場も新しくなるのか

旧型の機体の手先と新しい部品を見比べる森田恵子
旧型の機体の手先と新しい部品を見比べる森田恵子

試作の薄い部品が作業台に並んでいた。旧型の機体の手先では、扱う姿勢を変えないと無理が出そうだ。新型の機体に買い替える案と、手先を部分的に更新する案を比較している。

—— もう全部新しくすれば、簡単なのでは。

「それも選択肢です。でも、機体だけを替えて済むなら、前に作った工程の予定とか、そこで働く人の覚えたこととか、何だったんだろうって思いますよね」

もちろん、古い機体に固執してはいない。費用も、作業の安全性も、停止期間も確認した上で決めるという。

恵子が案内してくれた箱詰めの工程では、以前、作業速度を上げても次の検査工程が追いつかず、部品がたまってしまったことがあった。機体の手首にも負担が増え、交換を早めることになった。

「箱の置き場所を動かしたんです。大げさな話じゃないですよ」

机上の図面を示す。

「速さを上げる前に、箱をどこへ置くかを考えればよかった。工場長になってからも、現場の人に教わることは多いです。自分が昔、一番知っていると思っていた仕事なのに」

—— 今日の改善で、問題は解決しますか。

「しません。次の部品にも合うかは、試験しないと分からない。それに、現場の誰が困っているかは数字に全部出ません。まず聞かないと」

言い切らないところに、恵子の年月がある。

204004

NOW / A DAY AT WORK

17:10 工場に残る、と決めた人が帰る時間

合奏前のひととき、仲間に笑いかける森田恵子
合奏前のひととき、仲間に笑いかける森田恵子

昼に点検した機体は、夕方には再び作業へ戻っていた。新しい部品への対応は、翌日の試験で確かめる。

恵子はその予定を担当者へ渡した。誰が次に判断するか、連絡先も決めてから席を立つ。

机の横には、クラリネットのケースがある。今日は吹奏楽団の練習日だ。

—— 共同所有の分配もあるのに、仕事を辞めようとは思いませんか。

「辞めることも、できると思います。以前より収入の道が増えましたし。でも、私はこの工場で物ができて、ちゃんと届くところを見ていたいんです」

—— 責任が大きくなっても。

「大きいですよ。特に、人のことは答えがないですから。自分が導入を進めたことを、あのときの人たちがどう思っているか、分からない。聞いたから全部分かるものでもないし」

恵子は机の上を一度見回した。

「でも、ここを続けるにはどうしたらいいかを、誰かと考え続けられる。私はそれが好きなんでしょうね」

—— じゃあ、今日は練習を休んででも、仕事を。

「それは違います」

すぐに返ってきた。

「私が残らないと決められない工場なら、工場長になった意味がないでしょう」

守衛に声をかけて工場を出る。明日も生産はある。恵子が帰った後も、人が判断して工場を動かす。

2040 / THE DAY AS LIVED

工場を引き受けて、帰る一日

  1. 08:20故障を待たず、予定を組み替えて機体を点検へ回す
  2. 10:40新型への買い替えと部分更新を検討。設備だけでなく工程と人を見る
  3. 昼〜午後点検と検査の結果を確認。誰が次の判断をするか決める
  4. 17:10翌日の試験予定を引き継ぎ、自分の仕事をここで終える
THE SECOND VISIT / ANOTHER DAY / KYOTO

変化を進めた人がいる。
変化を生み出した人もいる。
その先の、それぞれの選択

次の取材は、別の日の京都。

THE STUDIO / KYOTO2040
試験拠点で旧型機体の動きを確かめる井上拓也
試験拠点で旧型機体の動きを確かめる井上拓也

02 / CHOOSING TO CHANGE

井上拓也

「次の型ならできます」と言っていた人43歳/京都府京都市。2026年ごろは機械・制御の設計職。2028年前後にフィジカルAIの開発へ入り、現在は複数企業で使える部分更新の接続条件・試験方法づくりを担当する。給与に加え共同保有の分配も得る。休日は自転車で出かけ、古い映画館に寄る。

204001

NOW / A DAY AT WORK

09:30 遅く動かす、という仕事

京都の試験拠点を訪ねると、井上拓也は旧型の機体を見つめていた。部品を箱へ置く動作を二度繰り返し、二度目は腕が少し遠回りしてから箱に近づく。

—— 今度の動作の方が遅いですね。

「そうです。箱の近くで急に曲がるのをやめて、早めに向きを変えています。動作を作るチームが調整したものです」

—— 速くする開発ではない。

「速い方がよい場合もありますよ。でも、関節への負担と、次の工程に間に合うかは別の話です。同じ型でも、これまでの使われ方によって状態は違いますから」

摩耗した部品が動作更新だけで元に戻るわけではない。拓也は試験内容を確認し、まだ調べていない条件を記録に残した。

「ここは『未確認』で」

—— 何か、慎重ですね。

「昔はもっと『できます』って言ってました」

拓也は、笑ったような、少し苦い顔をした。

2026—2030s02

THEN / WHEN THE WORK CHANGED

2028年 動くものを作りたかった

2026年ごろの拓也は、産業機械や制御の設計に携わっていた。新しい部品を組み合わせ、思ったとおりに物が動く瞬間が好きだった。

フィジカルAIの開発へ移ったのは2028年前後。さまざまな環境で作業できる機体が、試作から現場へ出ていく時期だった。

—— どうして、その分野へ?

「面白そうだったからです。機械が自分で周囲を見て動く。まだできないことも多いし、失敗ばかりだったけど、毎月何かが変わっていたんです」

初期の機体を完成させるまでの仕事は大変だった。それでも、新しい型の試験がある日は、帰る時間を忘れたという。

「今でも好きですよ。新型の発表があると、見たくなります」

—— それなのに、なぜ古い機体を扱うようになったんですか。

「最初は、古い機体を扱っているとは思っていませんでした」

2030年代半ば、保守拠点で、まだ動くのに利用先が決まらない機体を目にした。新しい作業に対応できず、交換部品や制御の条件も揃わない。拓也が開発に関わった世代の機体も、そこにあった。

「できることが増えたと思っていたんです。でも、そこにある機体を使う人に『どうすれば使えますか』と聞かれて、私が答えたのは『次の型ならできます』でした」

—— それでは、今ある機体の答えにはならない。

「そうなんです。自分では前向きな答えだと思っていた。でも相手は、買い替えるお金や止められる期間も含めて聞いていたんですよね。私は新しい物を作ることしか見ていなかった」

すべての旧型を生かすことはできない。それでも、どこを替えれば使えるか、どこまで試験が必要かを調べる人がいなければ、買い替え以外の道は増えない。

それから拓也は、会社やメーカーをまたいで部品をつなぐ条件や、交換後に試す方法を考える仕事へ移った。

204003

NOW / A DAY AT WORK

13:50 新しい機体を作る人たちが、羨ましい

部品を手に規格の仕事を説明する井上拓也
部品を手に規格の仕事を説明する井上拓也

午後の試験台には、手首のユニットが置かれていた。固定する形だけでなく、電源、通信、制御、重さ、交換後の確認まで考える必要がある。

—— 部品が同じ形なら、使えるのでは。

「そうだったら早いんですけど。形が合っても、ちゃんと動くかはまた別です。現場で何が起こったときに止めるか、誰が確認するかも決まらないと」

机の隅には、別の企業とすり合わせる必要のある項目が書き込まれている。

「会議、多いですよ。新しい物を動かしていたころの方が楽しかったかもしれないですね」

—— 戻りたいと思うことは?

「ありますよ。新型機の試作で、みんなが一つの動きを見て歓声を上げるでしょう。あれは今でも羨ましいです」

そう言って、拓也は古い手首のユニットを持ち直した。

「でも、あのとき作ったものが何年か後に使えなくなるなら、そこまで含めて誰かが考えないといけない。私は今、こっちをやりたいんです」

ある現場では、本体を丸ごと替える案と、手先や制御部分だけ更新する案が比較され、試験や停止にかかる時間を踏まえて、後者が選ばれたという。ただし、別の工場で同じことができるとは限らない。

—— 成功例を増やしていくのが目標ですか。

「そうですね。でも、記録に『できなかった』と残すのも必要です。できると言ってしまう方が、現場の人は困る。以前の私なら、できそうな条件だけ探していたと思います」

204004

NOW / A DAY AT WORK

18:05 誰かが手を入れられるものを作る

映画館へ向かい仕事から離れた井上拓也
映画館へ向かい仕事から離れた井上拓也

夕方、拓也は確認した条件を翌日の担当者へ引き継いだ。試せなかった組み合わせもそのまま残す。曖昧な部分を、なかったことにはしない。

—— この仕事を続けたい理由は、何でしょう。

「前に作った機体が、誰かの工夫でまた使われたと聞いたときですね。自分が作った物が、そのままずっと残るわけじゃない。でも別の人が手を入れられるなら、作ったことが次につながる」

—— 最新型を作る道を選んでいたら、もっと評価されたかもしれません。

「それも考えました。今でもちょっと思いますよ」

拓也は対応表を閉じた。

「ただ、『次の型ならできます』以外の答えを作れるようになりたいんです。私の作った部品じゃなくてもいい。いま現場にある物を使いたい人が、ほかの道を選べるなら」

帰り道では、古い映画館の上映時刻を確認するつもりだという。

—— 映画も、新しいものより古いものが好きなんですか。

「そういうわけでもないですよ。新作も観ます」

古い映画館へ通うのは、建物が好きだからだと笑った。

「新しいのと古いの、どっちかだけがいいって話にはしたくないですね」

2040 / THE DAY AS LIVED

つくる仕事を、次の人へ渡す一日

  1. 09:30更新した動作を比較し、未確認の条件を正直に残す
  2. 午前新型の試験にも目を向ける。最先端への憧れは消していない
  3. 13:50企業間の接続・試験条件を詰める。会議も含めて今の仕事を引き受ける
  4. 18:05試験結果を別の人へ渡し、古い映画館へ向かう

EPILOGUE / THEIR CHOICES

変わる仕事を、どう生きていくか

恵子は、ロボットを導入した現場を知っている。その判断で助かった人も、以前の仕事を離れた人もいる。だから工場を、ただ動かし続けるだけでなく、誰かが働きたいと思える場所にしたい。

拓也は、新型機を作る仕事が好きだった。その仕事を続ける道もあった。それでも、自分たちが世の中へ送り出したものが、現場で使われなくなる瞬間を見て、次の仕事を選んだ。

どちらも正解を見つけた人ではない。恵子は明日も工場で難しい判断をする。拓也は次の会議でも、使えると言い切れない条件に向き合うだろう。

2040年。ロボットが人に代わって働くようになっても、人が何を作り、どこで働き、どう暮らしたいかは、一つには決まっていない。

二人が今しているのは、技術が完成する日を待つことではない。自分の経験を持って、ここでまだ何かを作りたいと決めることだった。

FICTION ENDS HERE — 2040年の物語から、現実へ

この未来を考える、現在の手がかり

本編の2040年、人物、共同保有収入、部分更新規格の普及範囲や仕事場は架空です。現在の工場・物流でのロボット利用、AI研究、モジュール型ロボティクスには、未来を考えるための実際の手がかりがあります。

  • 工場・物流で試されている人型ロボット。 BMWは2024年、Figure 02の工場試験を紹介しました。GXOとAgility Roboticsは同年、Digitの物流導入について複数年契約を発表しました。工場や物流という、実際の仕事の場へロボットが入っていく動きです。 BMW Group / 2024-09-11 / Agility Robotics / 2024-06-27
  • Pepperは、いまも変わり続けている。 2014年に登場したPepperは、2021年に生産停止が報じられたが、メーカーは販売とサポートの継続を表明した。その後、2025年には既存機体も対象に家庭向けサービスを刷新し、2026年には新モデル「Pepper+」を提供開始。新モデルへの移行時に、旧機体の返却が必要な法人向けプランもある。使い続けるか、次の機体へ移るか。身近なロボットにも、その選択がある。 ソフトバンクロボティクス/2021年の案内 / 家庭向けサービス刷新 / Pepper+発表・2026-02-02 / 契約移行のFAQ
  • AIの学習をロボットの動きへ。 Google DeepMindのRT-2は、画像や言語をロボットの行動へ結びつける研究の一例です。 Google DeepMind / 2023-07-28
  • 部品を組み合わせる技術。 HEBI Roboticsは、関節・制御などを構成要素として扱う技術と接続条件を公開しています。メーカーも世代も異なる機体を、どこまで生かせるのだろうか。 HEBI Robotics / Hardware

同じ世界線を、別の暮らしから

Interview 01 — 残したかったのは、仕事だけじゃなかった。 2040 / ROBOT COMMONS — この世界を読む