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DoNext!!とは?

DoNext!!は、現実の変化を手がかりに「ありうる未来」に人を住まわせ、その人生を仮想インタビューで覗くWebマガジンです。

未来を予言するのではなく、まだない生活や仕事を具体的に思い描き、未来の選択肢を増やすために作っています。

VIRTUAL INTERVIEW / 01 · TWO LIVES

残したかったのは、仕事だけじゃなかった。

仕事を選び直した中村修司と、家族や自分のための時間を選ぶ山本真由

会社を譲った人と、勤務時間を減らした人。二人が手放したのは違うものだった。

中村修司の家には、もう会社の看板はない。けれど、戸棚の引き出しに、昔の取引先の名刺がまだ残っている。

山本真由の予定表には、小売店の勤務と陶芸教室のあいだに、親の買い物に付き添う予定が書かれていた。どれも、できれば消したくない予定だという。

2040年。工場や物流拠点で働くフィジカルAIのロボットを、個人が持ち、あるいは複数の人が共同で持つ。利用する企業が支払ったお金から、運用・保守・更新の費用を差し引いた分が、所有者へ届く。共同保有による分配は、生活費の一部を支える、擬似的なベーシックインカムのような役割を持ち始めている。

けれど、ロボットを持つことそのものが人生の目的だったわけではない。

二人はこの仕組みを使って、何を残し、何を諦め、これから何を選ぼうとしているのだろう。別々の日に、それぞれの暮らしを訪ねた。

ここに登場する人物、会話、出来事、2040年の制度はフィクションです。現実の投資収益や技術の実現を保証するものではありません。

決めたかったのは、
ロボットを持つ方法じゃない。
自分の、これからの暮らしだ。

修司の一日を読む ↓

自宅で次の契約を確認する中村修司
自宅で次の契約を確認する中村修司

PERSON / 01 · SHUJI NAKAMURA

中村修司

続けたい会社を、自分で終わらせた54歳/静岡県浜松市。かつて工業部品卸の会社を経営。現在は譲渡で得た資金の一部を機体保有会社へ移し、複数のフィジカルAIを所有する。契約や保守の実務は専門の運用会社に任せる。妻と二人暮らしで、子どもは市外にいる。

01

09:20 なくなった会社の、まだ残っている仕事

朝の食卓の隅に、買い物のメモと、ロボットの次期契約の資料が並んでいた。

「魚とトマト。どっちか忘れるんですよ」

修司はメモを指さした。妻と夕食を作る日は、先に食材を買いに行くのだという。その隣にある契約資料には、物流拠点で荷物を運ぶ仕事と、部品工場で箱を詰める仕事の二案が記されている。

—— いまも、経営者の仕事をしているようですね。

「会社は譲りましたけど、判断するのは嫌いじゃないんです。人に任せた方がいいところも、ようやく分かってきました」

2026年ごろ、修司は部品卸の仕事を続けていた。急に設備が止まった客先へ部品を届けたり、手配先を探したりする。頼りにされるのが好きだった。

2030年代に入ると、一部の取引先が設備や部品の調達をまとめて契約するようになった。フィジカルAIを使う拠点も増え、メーカーや運用会社と直接やり取りする仕事が少しずつ増えた。従来の卸の役目が消えたわけではない。けれど、自分の会社が間に入る意味を、以前と同じ言葉で説明できなくなった。

—— そのころ、どうしましたか。

「最初は、うちにもできる仕事がまだあると思っていました。実際、ありましたよ。手配の早さとか、付き合いの長さとか。でも『まだある』と『この先も続けられる』は、別でしょう」

黒字のうちに新しい設備へ投資する。規模を小さくして続ける。別の会社へ譲る。どれも選べた。

—— 譲渡したのは、会社を守れなくなったからですか。

「その言い方、少し悔しいですね」

修司は笑いかけて、言葉を探した。

「続けるなら、自分だけじゃなくて、一緒に働いている人にも賭けてもらうことになる。それが嫌だったんです。私は今でも、あの会社の仕事が好きですよ。好きだから、続けるって決めればよかったのかもしれない。でも、それを従業員に言えるか、と考えたら違った」

譲渡先との話が決まっても、すっきりした気分にはならなかった。自分で育てた事業を、最後は自分で手放す。会社を続けるより、その決断の方が難しかったという。

—— いま、後悔はありませんか。

「ないと言ったら、たぶん嘘ですね。あのまま続けていたらどうなったか、考えることはあります。だからって、戻りたいわけでもないんです」

02

11:00 産業からは、離れなかった

食材を選ぶ修司
食材を選ぶ修司

近所の店で夕食の食材を選ぶ。売り場では、小さなフィジカルAIが品出しを手伝っていた。修司は機体の動作を少し眺め、結局、魚の切り身を二つ買った。

会社を譲った後、完全に引退するという選択もあった。だが修司は、産業に関わることまで終わらせたくなかった。

—— なぜ、次にロボットを所有しようと思ったんですか。

「前の商売の取引先で、機体を使う会社が増えていったでしょう。部品を運ぶ側から、働く機体を持つ側になる。正直、面白いと思ったんです。今度は少人数でもできる形にしたかった」

譲渡で得たお金のすべてを機体へ投じたわけではない。資金のある自分には選べる手段があったことも、修司は隠さない。

「それは大きいですよ。誰でも私と同じようにやれる、なんて言えません」

機体の運用先との契約、現場調整、点検や修理は専門の会社へ任せる。利用料が入っても、保守費、運用費、交換・更新のための積立を残してから手元の収入になる。

自分が昼の買い物をしているあいだも、機体は離れた現場で働いている。ただ、働いているからといって、いつも同じ収入になるわけではない。

03

14:00 また、見切りをつける日が来るのか

自宅から機体の更新相談をする修司
自宅から機体の更新相談をする修司

午後、自宅の画面に保守拠点の担当者が映った。旧型の機体について、手首などの一部を更新して別の仕事に使う案が出ている。技術的に適合するかは試験が必要で、まだ見積もりは確定していない。

別の資料には、新型へ買い替える案もある。まだ動くうちなら下取りで費用を抑えられるかもしれない。ただし、査定条件と市場の状況による。

—— 故障した機体ではないんですね。

「ちゃんと動きます。でも、新しい仕事に合わなくなってきた。前の会社を思い出すんですよ。まだ働けるのに、頼まれる仕事が減っていく」

修司は画面に並んだ数字を指で追った。

—— 買い替えれば、安心できますか。

「新しい機体だって古くなります。部分更新なら費用を抑えられるかもしれないけど、試験もいる。増やす選択もあります。私はいま、何を続けたくて、何を手放せるのかを考えています」

担当者には、部品交換後の確認内容と停止期間を見積もりに入れてほしいと伝えた。結果が出るまで、契約を急いで決めないことにした。

—— 以前より、決めるのが慎重になった。

「慎重というか、時間があるんでしょうね。昔は夜に電話が鳴ったら、その場で返していた。今は、明日でいいことを明日にできる。それは、結構大きいんです」

04

19:00 何のために、仕事を変えたのか

夕食の支度をする修司
夕食の支度をする修司

夕方、修司は買ってきた魚を焼き、妻と台所に立った。食卓には、仕事の資料を持ってこない。そう決めているという。

—— 会社を売り、働き方を変えて、得たかったのはこの時間ですか。

「それもあります。でも、最初から料理がしたくて会社を売ったわけじゃないですよ」

笑って、フライパンの火を弱めた。

「続けたい仕事はありました。でも、続け方を変えたかった。今は、違う仕事に関われて、こういう時間もある。何も心配がなくなったわけじゃないけど、もう一度選べたんだな、とは思います」

翌日、旧型機の見積もりが届く予定だという。修司は食後に確認するのかと聞くと、首を振った。

「明日の朝でいいです。たぶん気になりますけどね」

A DAY IN 2040

修司が選び直した一日

  1. 09:20自宅で新しい契約案を確認。必要な判断と、運用会社へ任せる仕事を分ける
  2. 11:00夕食の食材を買う。以前は取引先へ急ぐ時間帯だった
  3. 14:00旧型の部分更新と買い替えを比較。決定は試験結果のあとへ
  4. 19:00妻と夕食を作る。契約の返事を翌朝へ持ち越す

TWO LIVES / ANOTHER DAY

会社を譲った人がいる。仕事を辞めず、時間を選び直した人もいる。

別の日、同じ浜松で。

PERSON / 02 · MAYU YAMAMOTO

山本真由

働く時間を減らしたのは、働きたくないからじゃない46歳/静岡県浜松市。小売店に勤めながら、給与の一部を地域のロボット共同保有組織へ積み立ててきた。現在は分配を生活費の一部に充て、店では短時間勤務を続ける。親の生活を手伝う時間を確保しつつ、陶芸も習っている。

自宅で共同保有の報告を読む山本真由
自宅で共同保有の報告を読む山本真由
01

09:00 予定表の、消したくないところ

真由の机には、共同保有組織の収支報告が開いていた。すぐ横の予定表には、店の勤務、親の買い物への付き添い、陶芸教室の時間が別々の色で書かれている。

—— 今日は、ずいぶん予定がありますね。

「多いですよ。全部、自分で入れた予定なんですけど」

今日は午前中に店へ出て、午後は親と買い物に行く約束をしている。夕方には陶芸教室がある。

—— ロボットの分配があるなら、働かなくてもよいのでは。

「仕事は好きなんです。常連のお客さんの顔を見るのも、誰かと一緒に売り場を作るのも。辞めたいわけじゃなかったんですよ」

以前は勤務表を先に決め、その空いたところへ家族や自分の予定を入れていた。親の通院を手伝う日が増えると、そのやり方が難しくなった。

—— 親御さんのために、仕事を辞めようとは思いませんでしたか。

「考えました。でも、そうすると今度は、生活費が心配になるし、店の仕事もなくなる。親だって、私がずっと付き添っていればいいというわけじゃないんです。勝手に予定を決めると怒られます」

そう言って笑った。相手にも相手の生活がある。手伝うことと、何もかも引き受けることは違うという。

02

10:30 辞めないために、減らした

真由が共同保有組織へ出資を始めたのは、親の生活に手助けが必要になるより前だった。

最初は、先々仕事を減らしたくなったときの選択肢が欲しかった。フィジカルAIを一台買うほどの資金はない。地域の組織を通じて少しずつ持分を積み立てる方法なら、すぐに生活を変えず参加できた。

—— 親御さんの通院が増えてから、一気に投資したのですか。

「いいえ。そんな余裕はなかったです。何年も少しずつです。増えるかどうか分からないお金に全部預けたら、それはそれで困りますから」

工場や物流施設がロボットを借り、その利用料から運用・保守・修理・将来の更新費を差し引いた分が、共同所有の参加者に分配される。ただし、機体が古くなったり、契約が減ったりすると分配も変わる。

現在は、その分配と短時間勤務の給与を合わせて暮らす。真由は、仕事を辞めるのではなく、働く日数を調整する道を選んだ。

—— 勤務を減らしたとき、寂しくありませんでしたか。

「ありました。前は新しい売り場を準備するとき、最後まで残っている方でしたから。今は途中で人に任せることもある。自分がいなくても回るんだなって、少し悔しかったりします」

勤務を短くすることと、仕事が大切でなくなることは同じではない。

03

14:00 親の時間も、自分の時間も

店を出てから、真由は親へ連絡した。予定していた買い物は、今日は自分で行けそうだから大丈夫だという返事だった。

「せっかく空けたのにって、ちょっと思うんです。でも、よかったなとも思う。自分でできるって言われる方が、安心ですから」

以前なら、勤務を抜けた時間が急に空くと落ち着かなかった。いまは、予定が変わっても慌ててシフトを増やさずに済む日がある。

ただし、今日見た共同保有の報告書では、参加している機体群の更新費が予定より増える可能性が示されていた。

—— 分配が減ると、また働く日を増やしますか。

「そうすることもあると思います。でも、どこまでなら増やせるか、ほかの支出を変えられるか、先に考えます。せっかく調整した時間を、数字が変わるたびに全部戻したくないので」

親のために時間を空けることは、親を自分の予定へ合わせることではない。自分のために時間を残すことも、わがままではない。真由はそう考えるようになった。

04

16:30 茶碗を作る、誰のためでもない時間

陶芸教室で土を触る真由
陶芸教室で土を触る真由

陶芸教室で、真由は土をならしていた。思ったより厚くなった縁を、指で少しずつ整える。

—— 陶芸は、仕事やご家族と関係があるんですか。

「ないです。そこが好きなんですよ」

少し考えて続けた。

「親のことを考える時間も、店で働く時間も、大事です。でも全部それだけだと、私が何をしたいのか分からなくなっちゃう。うまくできなくても、自分がやりたいからやる時間が欲しかったんです」

共同保有の分配がなければ、今と同じ時間割は作れなかったかもしれない。一方で、ロボットが働くからといって、何も考えず暮らせるわけでもない。

—— これから、どういう時間を増やしたいですか。

「親と一緒に出かける日も、店で新しいことを覚える日も、ここで失敗する日も。どれか一つだけを選ばなくてもいいようにしておきたいですね」

夕方、真由は親へもう一度連絡しようとしたが、端末を鞄に戻した。急ぎでなければ、教室が終わってからでいい。土はまだ、手の中にある。

A DAY IN 2040

真由が自分で決めた予定

  1. 09:00分配予測と、仕事・親・自分の予定を見比べる
  2. 10:30好きな接客を続けるため、短い勤務へ出る
  3. 14:00親の都合が変わり、空いた時間を自分で使う
  4. 16:30陶芸教室へ。家族の役割とも仕事とも違う、自分の時間

AFTER THE INTERVIEWS

二人が選んだのは、別々の道だった。

修司は会社を手放すことで、仕事との関わり方を選び直した。真由は仕事を手放さず、時間の使い方を変えた。資本も経験も、選べた道も違う。

ロボットの共同所有や個人所有は、暮らしを支える仕組みになった。しかし二人にとって、その仕組みは目的ではない。修司には続けたい産業との関わりがあり、真由には一緒に過ごしたい人と、自分のために過ごしたい時間がある。

まだ動く機体に仕事がなくなれば、修司は再び事業の将来を選ばなければならない。分配が減れば、真由は時間の組み方を考え直すかもしれない。

その不確実さのなかで、二人は今日も予定を自分で決めている。

働くロボットの向こうには、その機体を使い、直し、使い続けようとする人たちもいる。次のInterviewでは、別の二人が何を守るためにその仕事を選んだかを訪ねる。

FICTION ENDS HERE

この未来と、今の現実

本編の人物・個人の機体保有・共同保有からの生活収入を描いた2040年はフィクションです。一方、フィジカルAIの現場利用や、AIやロボットの利益を広く共有する構想には、現実の手がかりがあります。

  • 物流で働くロボット。 GXOとAgility Roboticsは2024年、人型ロボットDigitの物流業務への導入について複数年契約を発表しました。 Agility Robotics / 2024-06-27
  • 工場での試験。 BMWは2024年、Figure 02を用いた工場での試験を紹介しました。既存の生産工程とロボットを接続する取り組みの一例です。 BMW Group / 2024-09-11
  • 共同で資産を持つという考え。 孫泰蔵氏は2024年、AIやロボットの資産をコミュニティで所有し利益を還元する「ベーシックアセット」の構想を紹介しています。 東洋経済オンライン / 2024-03-30

これらの種は、私たちの本当の未来に、どんな世界をもたらすのだろうか。